キーロフ・白鳥の湖エジンバラ公演

世界1のバレエ団キーロフ・バレエが初めてスコットランドの土を踏んだ。
 

2000年5月6日土曜日
古都エジンバラの風景にしては少しばかし似つかないガラス張りのお洒落なフェスティバル・シアターにて、待望の世界一の「白鳥」を見るために、hirokoとクリスはははるばるアバディーンからエジンバラへと足を運んだ。

このスコットランドにきてからアバディーンのマジェスティー・シアターで、「モスクワ・シティー・バレエ」と「セントピーターズバーグ」の2本の「白鳥の湖」を体験こそすれど、アバディーンのシアターはあまりにも小さすぎて白鳥達がどうも伸び伸び踊れない感じがひしひしと伝わってきて、大阪のフェスティバルホールでボリショイの白鳥を体験したhirokoとしてはすごく欲求不満だった。
まずはこれほどの施設の整ったホールでないと天下のキーロフやボリショイなんぞは来てはくれんだろう。
殆どこの2つのバレエ団がスコットランドへやってくるなどとは夢にも思っていなかったので、エジンバラへキーロフがやってくるという情報をキャッチした時の感動というものはただごとではなかった。

チケットはストールで£35、£42.50、バックストールで£27.50、ドレスサークルで£35、42.50、48.
二階サークルで£9.50,15.50、21.50etc...とピンキリだ。
このukにしては高いチケット代金だが、日本でキーロフを見ようものならこの倍はとられる世界である。

7時半の開演を前にロビーにはキルトを身につけた正装姿の男性,ドレス姿の女性などが目立つ。
間違ってもヨレヨレのジーンズにT−シャツなんぞではキーロフ・バレエそしてチャイコフスキーに申し訳がないのである。
バレエに関してはド素人のクリス君ですら、アバディーンを出る前には、やっぱせめてスーツだよなぁ。レスペクトを示さなきゃぁね。などとわかったようなことを言うので驚いてしまった。
まぁ、スーツなんぞは葬式か結婚式にしか着ることなく、たんすのコヤシとなっていたのを取り出してビシッと決めたクリス君だった。

初めて入るフェスティバル・シアター。
大阪のフェスティバルホールと比べるとかなり小さくはなるが、外見のモダンさとはうって変わってクラシカルな雰囲気をかもし出すステキなシアターだ。
勿論アバディーンのシアターに比べると雲泥の差ほどの大きさがある。
これならバレエも大丈夫だ。

私達の席は£35の1階のストール席で前から8番目だった。
わくわくぞくぞくしながら開演を待つ。

照明が暗くなった。
オーケストラが静かにプロローグに入っていく。

第1幕の舞踏のテーマが始まり盛りあがる。
幕が開いた。
きらびやかなステージが広がって行く。

YEVGENY IVANCHENKO
 

「おお!王子が男前やん!」とhirokoは感動する。
時としてこのジークフリート王子がえげつなくイメージのそぐわない時があるのだが・・・
ボリショイの時にはこの王子が「パンダ」に見えたのだから、笑ってしまう。だがこのパンダ王子の踊りは素晴らしかった。
イカンイカン!おまえは一体何を見に来たんや?バレエやろ?
・・・と再びわれに帰り、金髪・サラサラの美しい王子に目を奪われてしまう。

「白鳥の湖」と言えば、やはり有名なのは第2幕の森の中に迷い込んだ王子が白鳥を見つける白鳥達の踊りなのだろう。チャイコフスキーのこの楽曲を全曲知らなくっても、有名な白鳥のフレーズや4羽の小さな白鳥達の踊りの曲だけは誰もが知っているはずである。
バレエ・ファンの中には第一幕はつまらない。・・・・という人もいるが、hirokoはこの華やかな第一幕が好きだ。

王子と共に道化師も王子の友達も皆素晴らしい。
とにかく「違う!」これが第一印象だ。

あっという間に第1幕が閉じてしまった。
1幕と2幕の間にはインターバルは入らない。
即座に森の中のシーンが開く。

ステージがでっかい分、白鳥の数も多い。
さすがに有数の選りすぐりで成り立っているキーロフだ。
その他大勢である白鳥ですら、しなやかで美しい。
待ちに待ったプリマの登場に会場内からはため息が漏れる。

ULIANA LOPATKINA
 

「美しい!」一言である。
バレリーナになるために生まれてきたような長い足。しなやかな腕、細かい演技が指先まで浸透している。
羽繕いをする白鳥の頭や首、肩、腕・・・すべてが白鳥そのものだった。
今回のユリアナの白鳥はhirokoの印象では美しくしなやか、まろやかさが特に強調されているように思えた。
3幕で登場する「黒鳥のオディール」と対照的にするためだろう。
ボリショイの白鳥は勿論しなやかで美しかったが、その中にシャープさを秘めており、所々でピシっと決めるメリハリのある白鳥だったが・・・
キーロフはあくまでもまろやかだ。
この好みは人によって違うだろう。
 

4羽の小さな白鳥の踊りでは、これこそお手本!
4人が一糸乱れぬ一直線。足の高さ、上げ方から頭の動き、視線の位置。すべてが4ツ子のクローンだ。
これほど完璧な4羽の白鳥を今まで見たことがない。
「凄い!」
ポッカーンと口をあけてミスはないものかと探すがとうとう見当たらなかった。
当然割れんばかりの拍手が起こった。

大きな白鳥の踊りはhirokoが好きなシーンの1つである。
それぞれのバレエ団によって振り付けが違う。3羽になったり4羽になったり数も違う。
ボリショイでは3羽だったが、キーロフは4羽にして広がりを見せてくれる。

オデットと王子のコンビは、全く息を呑むほど、ため息が出るほどの完璧さだった。
ところが悪魔のロッドバルトの出現で白鳥達は逃げ去り、オデットも消えてしまう。

第3幕までの間にインターバルが入る。
観客はこぞってロビーへと出向き、Barでワインやビールで喉を潤す。
開演前にあらかじめBarでインターバルのための注文すると、インターバルに入ったら、お客はBarへ直行すると名前の書いた紙の上に注文した飲み物が待っていてくれるシステムになっている。
これならば待たなくても済む。
そして、アイスクリームなどが売られている。

人々は口々に「ファンタースティック!」「ブリリエント!」「エクセレント!」「アメイジング!」等と興奮しながら第1幕、2幕の素晴らしさを語り合うのだった。

第3幕の幕が上がった。
お城に戻って21歳の誕生日を迎えた王子に待ちうけているものは花嫁選びである。
各国のお姫様達が招かれて、王子の前で踊る。

ハンガリー、ロシア、イタリア、スペイン、ポーランドの情緒豊かで華やかな踊りが続く。
hirokoはこの第3幕が一番のお気に入りだ。
各バレエ団によってそれぞれの踊りの振り付けが違うし衣装だって違う。
それを見るのが楽しみの中の1つなのだ。
今回一番印象が強かったのがスペインの踊りだった。
2人の女性ダンサーの設定となっているが、この二人のきりっとした踊りと、体の柔らかさ。
圧倒された。これほどの素晴らしいスペインの踊りは見たことがなかった。

そして何といっても3幕のメインは悪魔のロットバルトの娘で黒鳥のオディールだ。
白鳥のオデットと実に対照的で艶かしく、シャープで切れ味のいい踊りを展開する。
世の中にはこの黒鳥ファンが大勢いる。
hirokoはその中の一人である。
勿論同じULIANAが踊っているのだが、あの繊細な白鳥からこのシャープな黒鳥とこの2つをまるっきり別人のように操れる彼女は、やはり素晴らしいたぐい稀なダンサーだ。
白鳥に負けず劣らずの大きな拍手が浴びせられた。

3幕が閉じて再び、インターバルを迎え、とうとう最終幕の第4幕が上がる。
ストーリーも盛りあがりを見せる。
王子とロットバルトとの戦いの末、オデットの呪いが溶け、王子と永遠の愛を誓い合う。愛は悪魔に勝ったのだ。
このあたりの楽曲の盛り上がりで、鼻の奥の鼻水腺と目の奥の涙腺が入り混じってじーんと熱いものが鼻と目尻にたまってくる。
手がグローブのように腫れ上がる程拍手が続く。
目の中の汚いものが一切洗い流されたような神聖なオーラが、目を覆い被さったような気分である。
やっぱ、ロシアの音楽にロシアの踊りだ。
最高のはずである。
 

拍手はなかなか鳴り止まなかった。
古都で体験した古典音楽に古典舞踊。。。エジンバラの町はキーロフ公演の大成功を祝しているように思われた。
hirokoはまたひとつ夢を持った。
モスクワへ行って「バレエ鑑賞」三昧をすることだ。
クリス君は3度も「白鳥の湖」に付き合わされている。
夢うつつなhirokoにクリス君はつぶやいた。
「なぁ、今度は違うバレエを見に行こうよぉー!」

(るせぇーなぁ、せっかく綺麗な王子様を見て気分がええのに!)
「あかんあかん、初心者は白鳥をマスターしてからや!」と意味不明なことを口走るhirokoだった。