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格安パッケージツアー(スペイン編) |
格安パッケージツアー(スペイン編)
By Hiroko in July 1999
今回の旅行は、今までのようなインディペンダントものとは違って、パッケージ ホリデイ型である。 内容は「コスタ・ブラーバ、7日間セルフケイタリング、スクエアーディール £199」というものだ。 この£199(約40,000円)にフライトと宿泊が込みになっているのである。何とも 安いパッケージ・ツアーではないか! ただし、これはスクエアーディールである。 当日現地に到着するまで、どこのホテル・アパートメントに放り込まれるのかは 分からない。このスペインはUKの人々にとっては、NO.1人気のホリデイ・リゾート地である。 とにかく近くて安くて何と言ってもサンシャインが保証されているのだ。 もともとはパッケージ・ツアーのタイプではないhiroko&クリスであったのだが、 こう安いとなると話は別物である。
スペインのパッケージホリデイには、テネリフ、マヨーカ、メノーカ、イビータ 等の島々、又は本島のマラガ、コスタデルソル、コスタブランカ、コスタドラーダ、 コスタブラーバetc・・・コスタなにやらかんやら、と名の付いたリゾート地 が数多く点在している。 一般的にこのようなリゾート地に1週間、2週間放り込まれると、そのリゾート地 内でカンズメ状態となる。 海水浴、日光浴がメインイベントだと考えている人にとっては問題はないが、 クリスとhirokoは1週間ビーチで日光浴して過ごせるタイプでない。 いろんなことを考慮して選んだ場所がこの「コスタ・ブラーバ」となったいきさつである。
このコスタ・ブラーバは、スペイン本島でもバルセローナの北からフランスの 国境にかけて大きく広がっている北方沿岸で、切り立った崖と砂浜が交互に 重なる風向明媚なリゾート地である。 ここを拠点にバルセローナ観光、バルセローナから南方へ下がったところにある 巨大なテーマパークのポートアベンチュラ、そして奇才の画家サルバドール・ダリ の生まれ故郷フィガレスにあるダリ・美術館・・・など、観光を織り交ぜたビーチ ホリデイ・スタイルとしゃれ込んだのだった。
6月3日(木曜日)グラスゴーへ
灰色の空から小雨の降る肌寒い典型的なアバディーンの天候だった。 店が暇であれば、何とかhirokoを早めに帰してやりたいという職場のキッチン内 のスタッフの努力も空しく、この日はどうした訳かえげつなく忙しいランチタイム だった。 だが、ランドル君、クリス君、グレン君達のこの気持ちが涙が出そうなほど嬉しかった。結局3時で店をあがり、ひとまず家に戻って着替えを済ませ、小雨の降りしきる 中せっせとどでかいスーツケースをひっぱりながら、アバディーン駅からグラスゴー へ向かう列車に乗り込んだ。 今日は何とも長い一日である。
グラスゴーエアポートからのフライトは夜の10時である。 国際線チェックインカウンターを探すのだが見つからない。はぁてな? 驚いたことに私たちのパッケージツアーの主催は「エアーツアーズ」。 そう、エアーツアーズには独自で飛行機を持っているのだ。 さすがにホリデイの盛んなお国柄であると感心していた。
町中の旅行代理店などを訪れると、そこにはそれはそれは盛りだくさんのパッケージ ツアーの会社のパンフレットが所狭しと並べられている。 UKで最も人気のある大手ツアー会社は「ファーストチョイス」、「エアーツアーズ」 「ゴーイングプレイシズ」などで、私たちの選んだツアーは「エアーツアーズ」の 中のスクエアーディールということである。
つまりこういうことだ。 お金にゆとりのある人、気に入ったホテルに泊まりたい人などは、こういった パンフレットをピックアップし、ホテルやアパートメントの写真を見て、値段や どんなものが備わっているのかきっちり確認する。 例えば、ビーチまでは近いのか、スーパーマーケットは近いか、プールは備わって いるのか、アパート内にはどういう設備がついているのか、そういうことが当然のこと ながら事前に分かるようになっている。
このコスタブラーヴァを例にあげると、一番安いアパートメントで1週間セルフケイタリ ング が£309(約62,000円)となっている。まぁ、日本の皆さんからすればこれでも充分 安いはずだろう。 だが、これがスクエアーディールを使うと、「どんなところに放りこまれても 文句はなしよ!何せ£100(約20,000円)も安いんだから・・・だけど3つ星保証付き」 ってな具合になる。 であるから、このコスタブラーヴァへと向かう飛行機に乗り込むツアリストは パンフレット組とスクエアーディール組とに別れるが、出る時戻る時は一緒 ということになる。
今は6月始めでホリデイにしてはいささか早すぎる。 だがもうすでにこのエアーツアーズの専門チェックインカウンターへと向かう 人々のキューが目に入ってきた。 今でこんな状態なら、7月8月の繁盛期にはどんな具合になるのか嫌でも想像できる。 エアーツアーズのチェックインカウンターはエアポートの別館に独自に設けられていた。 長蛇の列に加わり、チェックインを済ませる。
このフライトは勿論エアーツアーズのホリデイ客しか乗せてはいない。 しかるに普通の国際線のように時間がピッタンコのはずはない。 時間があってないようなものである。 まぁ、スコットランドに暮らして、「遅れる」というものには慣れっこにはなっては いるものの仕事を終え、アバディーンからグラスゴーまでの道のりを歩んできた 者にとってはかなり長い1日である。疲れが時間の遅れを苛立たせる。 ホリデイ専用のチャーター機である。どうせ、小型のプロペラ機でプルプル・バリバリ と飛ぶのだろうとの予想を裏切って、何の何の、UKの国内線なみのジェット機である。 予定時間のフライトも大幅に1時間半遅れて、グラスゴーエアポートから飛び立った。 サンシャインの待つ、スペインへと・・・。
6月4日(金曜日)太陽の国スペイン
真夜中である。 ホリデイツアー客を満杯に乗せたエアーツアーズのジェット機内では、これまた エアーツアーズのスチュワーデスが皆に飲み物を聞いて回っている。 しかしこの飲み物が有料なのである。 うっかりとUKのお金をごっそりスペインペセタに交換してしまった私たちは、小銭を かき集めてなんとか1缶のオレンジジュースにありつけた。 2時間半のフライトの間、映画も1本用意されていた。 しかしこれも「画面は見せてあげるよ!だけど音が聞きたかったら、お金払ってね!」 ということで、ヘッドホーンも有料となっていた。 お空の上でもちゃっかりと商売しているエアーツアーズである。 さすがに機内食には料金が課せられず、コーヒー又は紅茶は無料であったのでほっと していた。 何せ、こういうパッケージツアーは初めての参加であるので、何も知らなかった二人 にとってはいい勉強になる。 少しばかりはUKのお金を残しておく必要がある。午前2時半、無事にジェローナ空港に到着した。 旅行をする旅に思うことであるのだが、ヨーロッパの人々にとっては同じヨーロッパ 内の旅行には、パスポートなどまるで、駅の改札員に定期券を見せて通してもらうような えらく簡単な関門なのである。人々はパスポートの写真の所のページを開いて 係員にぱっと見せるだけで素通り状態である。 何の為に来たのか、宿泊先はどこか、お金はいくら持っているか、などは全く 聞かれはしない。 ましてやこのフライトは全員がリターンチケットを持つホリデイ客なのである。 hirokoはうっかりと皆と同じようにパスポートを見せて、スルリと行こうとしたのだが、 やはり呼び止められた。 私はグリーンカード保持者とは言え、移民はいてはいないのだ。 だから何年、何十年暮らそうが、私は日本人パスポートなのである。 流れがhirokoの所でストップし、慌ててランディングカードに記入した。 これから気をつけなければならない。何せ長い長い1日だったのだ、ノウミソは 完全に休日状態で睡眠状態に陥ってしまっていたのだからしょうがない。 だがしかし、スタンプを押してもらえることは嬉しいことである。 素通りのUKの人々にはこのような出入国スタンプは押してはもらえないのだ。 少し得した気分である。
荷物をピックアップし、出口を出るとエアーツアーズの係りの人が皆を待っていた。 このフライトのスクエアーディールに申し込んだ人はおおよそ50名ほどだった。 各パーティーごとに決定された宿泊先が告げられる。 約30名ほどが私たちと同じローレット・デ・マーのXAINEアパートメントだった。 このコスタブラーバには、数多くのビーチがあるが、その中でも1番のメインビーチ で開けているのがこのローレット・デ・マーである。 これはラッキーな話であった。
バスターミナルには、数多くのバスが列を成して、ホリデイ客の乗車を待っていた。 バスはスクエアーディール組のホリデイ客を乗せて約30分ほどで、リゾート地に 到着した。朝の4時だというのに、街は眠ってはいなかった。 キラキラのネオンが眩しく、深夜たっぷり遊べるディスコやバーガーショップ、 スーパーなどは24時間openしているようだ。
はてさて、どんなアパートが私たちの1週間のねぐらなんだろうか?と不安げに 降り立つと、出来たばかりのおNEWのXAINEアパートメントの姿が目に入ってきた。 これはこれはさいさきいい話ではないか!おnewとは・・・ しかし、レセプションでチェックインするキューでは人々は口々に不平不満を 吐いていた。 新しいアパートメントなので、保証金を各部屋10,000ペセタ(約8000円)よこせと 言うのである。 大家族で2部屋3部屋使うグループなどはその2倍3倍となってしまう。 しかもこの保証金は最期にチェックアウトするときに返還されるというものだった。 「そんなこと最初に聞いていなかったぞ!」とおっちゃんおばちゃん達は目をつり上げて 抗議をするが、朝の4時である。 ここをキャンセルして別のアパートを探す気力など誰も残ってはいない。 それにもっと古くて汚いところで、又その分のお金もかかるというものだ。 ちょっとしたスクエアーディールの落とし穴って感じである。 しかし、「どんなところに放りこまれても文句はなしよ!だって20,000円も安いんだから !」 のうたい文句ではないが、これも仕方のないことなんだろう。 アパートメントは新築でとても奇麗だし、最期に保証金が戻って来るのであれば 最期の買い物も出来るしと、ポジティヴに気持ちを変換していった。 たった1週間のホリデイなのである。
旅とは最初の第一印象で何となく終わりまでズルズルと行きがちになるものだ。 つまり最初に嫌な思いをすると、最期まで旅は面白くないものになってしまう 傾向がある。ここは気持ちを切り替える必要がある。明日から楽しむために・・・ 部屋の中は驚くほど奇麗で、広々して実に気持ちのいい部屋だった。 アバディーンのごみだめの我が家を想像すると、まるで別世界のアパートである。 「ねぇ、クリス!宝くじでも当たったら、こういうホリデイアパートを1部屋買いたい もんだよねぇ。ああ、帰りたくねぇー!」
さて、始めてのセルフケイタリングである。いろいろ勉強になった。 まずは、タオル。 アパートなのでついてはいなかった。クリーニングレディーは存在しないのだ。 チップの心配はしなくていい代わりに、シャンプー、リンス、石鹸、タオルなどの たぐいは持参しなければならない。 トイレットペーパーも1つは備えついてはいたが、1個で1週間ももつはずはない。 バルコニー、広々としたリビングに大きなソファー、寝室にバスルーム、キッチン といったスティディオタイプのアパートだった。4人は有に寝泊まりできる広さがある。 冷蔵庫、TV、エアコンもきっちり備わっているし、キッチン用具も完璧だ。 欲を言えば、コインランドリーがないこと、電子レンジ、オーブンがないこと ぐらいなものである。
しかしホリデイにクッキングをするなどということはもともと考えてもいなかった ので、それにスペインは物価が安い。毎日レストランでも充分やりくりが可能である。 ひとまず、hirokoとクリスは満足していた。 目の前はディスコで少々騒がしいが、窓を閉め切るとさほど気にならない程度の 騒音である。 すぐさまベッドへなだれ込みたい心境だったが、24時間スーパーへと買い出しに 出かけていった。 パンや牛乳、ジュース、トイレットペーパー、タオルなどを買い込んで部屋に戻り、 漠睡の人となった。
午後からむっくりとベッドから起き上がり、街の散歩に出かけた。 アパートメントからビーチまではほんの3分ほどの便利なロケーションで、ひしめき合う ように 土産物屋、スーパー、バーガーショップ、カフェ、レストラン、パブなどがぎっしりと 道路を挟んで並んでいる。 太陽がサンサンと降り注ぐ中、待ってましたのTシャツ、半パン姿で軽々しい足どりで ビーチに着くとそこには、芋の子を洗うがごとく、色とりどりの海水浴客で埋め尽くされ て いた。
スペインの楽しみは勿論サンシャインである。 その次は?と訪ねられるとやっぱりこれは食になる。 特に「タパス・バー」には、盛りだくさんのシーフードの一品料理が並べられていて、 シーフード料理にめがないhirokoの食欲は嫌がおうにも増長していく。 日本で言うところの居酒屋である。 1品が500ペセタあたり(約400円)で、好きな品を指差して注文をする。 特にイカやタコ、貝類に尽(ことごと)く乏しい生活をしいられていたhirokoにとっては まるで天国の世界である。 注文した名物のサンガリアと共にイカやタコ、ムール貝に舌ずつみをうつ。 タパスを注文すると、必ずフランスパンの輪切りとともにやってくる。 オリーブオイルたっぷりのシーフード料理の数々に大満足であった。 二人で4品と、ビールとサンガリアで会計の方も3,000ペセタ(2,400円)あたり なのだからたまんない。
夕刻、アパートの隣のパブでのエアーツアーズ御世話役のミーティングに参加した。 サンガリアが無料で配られる。なかなかいい取り計らいである。 まずは、今回のパッケージツアーの参加者一同を集めての説明会である。 この周辺のことやいろんな注意事項が通達され、エアーツアーズが設けている 観光バスツアーの参加者を募っていた。 1週間の滞在中、毎日何かしらのバスツアーが用意されている。 勿論これは希望者だけで自由な選択である。 hirokoとクリスは、早速明日からの予定をおぼろげながら組み立てることにした。 とりあえず、明日の土曜日のバルセローナ観光、そして、火曜日に設けられている 「ポートアベンチュラ」の2つのツアーを申し込んだ。 夜の街は色とりどりのネオンが、単調な灰色の色彩に馴れてしまったhirokoの目には やたら眩しく感じられた。
6月5日(土曜日)バルセローナ観光
ゆっくりと起床し、ブランチをとりに街へ繰り出す。 スペインの名物には、パエリアがある。これを試さないはずはない。 シーフードがたっぷり入ったパエリアとサンガリアでブランチだ。 御値段は1,000ペセタ(800円)だった。 もっともいろんなものが、安い安いと大感激してはいるが、ここは何と言っても リゾート地なのである。 これらの料金もリゾート価格のはずである。 きっとふつうの街の普通の店なんかに行けば、もっともっと安いはずなんだろう。 だが、まぁ、hirokoはうまいもんを食べていると機嫌がよい。 とりあえず、コインランドリーの場所と郵便局を探し、絵葉書を購入し何通かを 投函し、ツアーのバスが発車するバス乗り場へと向かった。
午後2時、バスターミナルからエアーツアーズ主催のバルセローナ観光へとツアー バスに乗り込んだ。 ここからバルセローナまでは約1時間弱である。 バルセローナと言えば7年前にオリンピックの開催された街である。 街のあちらこちらに天才建築家ガウディーの素晴らしい建築物が目に入って来る。 アパートとして建てられたカサ・ミラ。 独創的な作品はどれもため息が出るが、その彼の晩年を捧げたという未だに建築が 続いているバルセローナのシンボルとも言われるサグラダ・ファミリア教会。 建築開始からおよそ100年以上もたっているが、はたして延々と続く工事が 完成の日の目を見るのは一体いつのことだろうか? 日本からも建築家たちがやってきて、協力しているそうだが・・・、 これがもし完成されたときには、また必ず舞い戻って晴れ姿を見たいものである。
ガイドのおじさんのお喋りはとっても面白く、冗談を交えながら各名所名所で ストップしながらツアーは進んでいく。 コロンブスの像、オリンピック競技場跡、バルセローナのフットボールチームの 本拠地である、ヌーカンプ・スタジアムでは、丁度1週間前にイングランドの マンチェスターユナイテッドがこのスタジアムで優勝を果たした所でもあり、フットボー ル ファンにとってはとても興奮するところであろう。 スタンディングを認めていた以前は120万人を収容出来るとのこと、今は安全性を 重視して、すべてがシート席のみとはなっているが、それでも9万9千人が収容される という、ヨーロッパ内で最もBIGなスタジアムの1つである。
バスはモンジュイクの丘でストップし、その丘からバルセローナの街が一望できた。 山が有り、港が有り、ケーブルが通り、その街のところどころに円錐状の独創的な 建築物を垣間見ることが出来る。 とても趣のある素敵な街である。
ランブラス通りで、2時間の自由時間が与えられた。 ここは、街の目抜き通り、パリのシャンゼリゼのような美しさはないものの、感じが 似ている。 ストリートパーフォーマー達がパントマイムをし、ミュージシャン達は音楽を奏で、 花屋さんや、鳥屋さん・・・どういうわけか、鳥を売る店が多い。 ペットで飼っている人が多いのだろうか・・・ ペインティングやアクセサリーを売る店・・・土曜の夜とあって、かなりの人通りである 。 私たちはさらりと見回したあと、ハードロックカフェへとなだれ込み、大盛りの 夕食にありついた。
午後9時、再びみんなを収容したバスは今回のメイン観光であるところの噴水広場前へと 進んでいった。 テクノロジーを駆使して作られたこの噴水の周りには多くの観光客がその色とりどりに 変化し、サウンドと見事に調和した水のマジックをうっとりと眺めていた。 駆け足のバルセローナ観光だった。
もっとも欲を言えば、あと2泊ほどこの街に止まって、のんびりとミロの美術館や ガウディーの建築物を眺めたいものだった。 バスは再び北上し、沿岸のローレット・デ・マーに到着した。時計を見るともう 12時を過ぎていた。
6月6日(日曜日)ダリ・ミューゼアム
暖かいサンシャインに満ちた日が続いていたのだが、どうやら今日は朝から イマイチ天候が思わしくない。 こういう日はビーチもくそもない。 朝早く目覚めた二人は、即座に「ダリ美術館」へ行こう!と計画をたて、急いで身支度を し、 バスターミナルへと向かった。ここローレット・デ・マーからはローカル・バスで、30 分おきに 国鉄駅のあるブラネス行きのバスが出ている。 切符売り場で金額を確認し、ブラネス往復の切符を下さいと、無愛想にイチゴを 食べている窓口のおっちゃんに告げた。 料金二人分の700ペセタでもって、2000ペセタ紙幣を支払い、お釣をもらう。 クリスがグニョォーンと首を折り曲げる。
「なぁ。ブラネス往復の二人分で700だよなぁ。俺2000ペセタ払ったんだぜ。 お釣が300しかない。」
と、キツネにつままれたような顔をしている。 すかさず、hirokoは窓口の無愛想なおっちゃんのところにひき戻り、「ブラネス、二人、 往復 いくらだ?」と、単語だけを並べて聞き直すと、おっちゃんはいくらと答えることもなく イチゴのケースの下にしのばせた1000ペセタ紙幣を何の悪びれる様子もなく 差し出した。 明らかにレジから出したものではなく、「ぽっぽないない」ねこばばしているのだ。 ここは、エジプトか!と疑いたくなる。 スペイン語が分からず、たどたどしている観光客をこうやって、騙しているのである。 まったく朝からムカつく話である。
窓口のいちごのおっちゃんもおっちゃんならば、バスのうんちゃんもうんちゃんで 全く無愛想である。 私たちの切符を見て、大声のスペイン語で何かぶりぶり言っている。 もっとも私たちはなぁーんにも訳がわからない。 何かまくしたてるようにたたみかけるようにべらべら言ってるのだが、いっこうに 分からない。 二人は馬鹿みたいにニタァーっと笑う。 多分、このチケットは違うルートのものであるように思えた。 同じブラネスへ行くバスは駅へ行く方とタウンへ行く方の2つがあるのだ。 もっとも料金は同じなのであるから、埒のあかない運ちゃんは諦めて、二人は 乗り込むことが出来たのだった。
バスが発車した。そこへドイツ人観光客の二人組が走って来る。 運ちゃんは「スターシオだ!(駅)チケットを見せろ!どこへ行きたいんだ?」 彼らは「スターシオ!スターシオに行きたいんだ!」とチケットを見せるが、 運ちゃんは「それは違う!スターシオ行きのチケットじゃねぇー!窓口で 交換してもらえ!それは反対方向のトサ行きのチケットだ!」 彼らは「スターシオって言ったんだ!、窓口の奴にさ!そしたらこれをくれたんだ!」 「でもそいつはスターシオ行きのチケットじゃねぇ!交換してもらえ!」 とがんとして、聞き入れない。
またまた、窓口のイチゴのねこばばおじさんの嫌がらせである。 とぼとぼと間違ったチケットを買わされたドイツ人たちは窓口へと走っていくが、 バスは情け容赦なく発車する。 ちょいと待ってやってもよさそうなもんじゃぁないの?って気になる。 これがスコットランドだったら、運chanは機転を利かせてバスに乗り込ませるか 窓口に戻った彼らをちゃんと待ってくれるはずである。 何とも嫌な気分だ。
途中のバス停でフランスの女性2人組が大きな荷物と共に乗り込んできた。 運ちゃんはモロに嫌な顔をしている。 くねくねと曲がる田舎道、その荷物がこともあろうにこの無愛想な運ちゃんの足元 近くまで転がってしまった。 すると運ちゃんは、その荷物を憎々しげに後方へポーンと投げたのである。 これはいくらその女性が自分の手元に荷物を固定していなかったせいにしても、 あまりにも酷い行為である。 hirokoはフランス語は知らないが、あきらかにその女性はフランス語でF言葉を 吐きながら舌うちをしたのだった。 窓口のおっちゃんにしてもこの運ちゃんにしても朝から大変態度が悪い。
わからんことはない。 こんなリゾート地で毎日毎日日焼けした観光客を周りに、何でオレはこいつらの 為に働らかんとあかんのや?って気になって当然だろう。ましてや今日は日曜日と きている。 しかしだ、あんたらだって、うちらがせっせと働いている間、ホリデイやってんのと 違うんか!である。 何とも朝から嫌な気分である。
ブラネスの駅はお見事なまでに、ポツネンとある田舎の小さな駅で、周りには 全く何ぁーんにも店の1つすらも存在しなかった。 目的のダリ美術館のあるフィガレスまでの時刻表を見ると・・・はぁ・・・ 9時半に到着した私たちの前には、8時45分の列車と11時半の2本の間に 他に列車は存在しなかった。 11時半まで2時間も、この何ぁーんにもない駅で待たねばならないのか!!! 何とかフィガレスまで行く方法を考えてみるが、1万円以上もかかるタクシーを 使うほどのもったいないことは出来ない。 とりあえず、切符だけを購入しブラネスの街へ出て、朝食でもとろう。ということに なった。
切符売り場で「フィガレス、往復、2枚」と言うと、窓口のおちゃんは、11時に なるまで、切符は売れないなどと言う。 スペインの国鉄事情は知らないが、本当なのか・・・何だかエジプトみたいだ。 売れないと言われればしかたあるまい。 何だか今日はついていない。
二人は、散歩がてらブラネスの街へと向かった。てくてくと歩く。 hirokoもクリスも、方向に関してはヒドイ音痴である。 街の匂いがする方向へとほいほいと歩いていくが、完全に迷ってしまった。 朝食を・・・などと流暢なことは言ってはいられない。 何せ引き返すには、どえらく歩き過ぎている。タクシー、タクシーでもって、 タクシーが走ってないか目を皿のようにして、探すのだが全くタクシーすら走っては いない。 段々と時間が迫ってきている。 何て日なんだろうとため息をついていたら、バス停の看板が目に入る。 大きなマンション前である。ちょうどそばを通りかかった女性に「このバスは スターシオに行くか?」と聞くと、OK! ひとまず、駅には戻れるということで、安心した。 朝から全くよく歩いたものである。お腹が減ってペコペコである。 ローカルバスがやってきた。良く見ると、運chanはさっきの無愛想な運ちゃんだったのだ。 彼は異様な面持ちで(お前等一体そこで何やってんねん?さっき駅まで運んで やったのに・・・変な奴等や!)とでも顔に書いてあるようだった。 またしても私たちは、運ちゃんに向かってニタァーっとするしか芸がなかった。
ブラネスからフィガレスまでの往復料金は1170ペセタ(約1,000円)ほどだった。 国鉄は車内は広く簡素ではあるが清潔な感じで気持ちがよかった。 スペインの北の田舎の光景を楽しんでいた。 さすがに羊がいなくてほっとした。
車掌さんが切符の検札にやってきた。「次の駅で乗り換えだよ」と言う。 「ええっ・そーなの?」そのまま乗っていればフィガレスまで行けると思っていたら 大間違いだったのだ。 とにかく乗り換えて、バルセローナからやってきた列車にまたまた乗り込んだ。 ここで1つ気が付いた。何のアナウンスもないのである。 「次はぁ・・・○○〜、○○〜、お乗り換えの方はぁ・・・」などという 駅名を告げるアナウンスが一切ない。その代りに、結構高ボリュームでクラシック音楽が かかっている。
地元の者ならともかく、観光客がどうやって自分の降りる駅を知ることが出来るんだろう。 うかうかと居眠りもしてられないのである。 しっかりと眼を凝らして停車駅の名を確認しなければ、何のアナウンスもない列車なので、 執り過ごしてしまう可能性は大である。 しかしだ、どうやら周りを見回してみると、明らかにツアリストらしきものしか 乗り合わせていないみたいである。 そのツアリストの目的地は言わずと知れた「フィガレス」なのである。 心配をよそに殆どの乗客はフィガレスで下車していくので、アナウンスがなくとも 本格的な居眠りさえしていなければ、雰囲気で察知できる。
念の為書き留めておくが、ずんずんと田舎の光景が続くなかで、ぱぁーっと都会が広がる 駅がある。これがエアポートのあるジェローナ駅で、そこを過ぎるとまたまた 田舎の風景に戻り、約20〜30分ほどでフィガレスに到着する。
これがあの天才画家サルバドール・ダリの生まれ故郷か?と疑いたくなるような 静かで長閑な田舎町である。 この街には、ダリ美術館以外のアトラクションなどは存在しないであろう。 地図の1つも持たずにやってきた私たちではあったが、ぱらぱらと下車してきた ツアリストたちの流れにあわせてついていく。
ダリ美術館への看板は小さくて見逃しがちになりそうであったが、くねくねと街を 見回しながら進んでいくと、この街にはおおよそ似合わない巨大な玉子で飾られた モダンな建物が眼に入ってきた。
日曜日とあって、建物の周りのpubや土産物屋はたくさんの観光客でごった返していた。 入場料は1,000ペセタ(約800円)、館内はダリ自身の手による絵画や彫刻、オブジェが 溢れており、特に彼お得意の騙し絵のトリックものや、写実主義的なタッチの 絵画は、ここまでやってきた甲斐があったと満足出来るものだった。 トリックの施されたオブジェも数多く取り入れられており、この美術館はダリの ファンでなくとも1日充分楽しめる所である。行きがこんなに列車の本数が少ないことに参ったので、帰りはしっかりと時間を メモしておいた。 フィガレスの駅に降りた時には、ツアリストのあとを金魚の糞みたいについていったので、 どの道をどう通ってきたのか、checkをすっかり怠っていた。 充分ダリの作品を楽しんだ後、帰りはボチボチと駅を目指し、歩き出した。 方向音痴の二人はずんずんと懲りずに歩いてゆく。だがいっこうに駅の気配がしてこない。 嫌な予感がまたまた湧き上がってくる。 またしても迷子である。まったく!今日は何という日なんだろう。 足が棒になって疲れ果ててきた。それでも駅を探さねば帰れない。 民家のおばちゃんに「スターシオ?」って聞いてみる。彼女は笑いながら・・・ 「まったく反対だべさ!」って答えているような感じだった。 身振り手振りで、どえらく遠くの方向を告げている。 全く、今日という日は何の日だぁ?・・・が口癖のようになってしまった。 6月6日・・・もう1つ6が揃えばダミアンである。そうだ、オーメンなのだ。 出鼻をくじかれことごとくついていない。 延々と歩くに歩いて、ようやく駅の気配と匂い?がしてきた。 カラカラの喉をコーラで急いで潤して、充分堪能し散歩までオマケのついたフィガレス の街をあとにした。
ゴットンゴットンとブラネス駅に戻ってきたら、バスがしっかり待っていた。 乗り込むと・・・そう!御想像の通り・・・朝の無愛想な運ちゃんである。 縁があるというのか、このバスのルートは彼しか運転手がいないのか・・・ 向こうもしっかりこっちの顔を覚えていた。 お互いにニタァーっと笑った。やな野郎だが、笑うとえくぼなんてこしらえている。 変な奴である。
歩くのが好きなクリス君もさすがに今日はよく歩いたかして・・・「全く、今日は 疲れたなぁ・・・どうだ?今晩はうんとこスパイシーな カレーでも食べたい気分だ! 昨日見つけたインディアン・レストランへ行こう!」 「うん。何でもええ!何でもええからお腹ペコペコや!!」 と、今夜の夕食はインディアン・レストランでカレー決定した。
バスを降りてテクテクとインディアン・レストランへと直行を試みる。 「どのあたりか覚えてる?」「うん!だいたいね。」 「確か・・・このあたり・・・」「ない!」あれぇ? じゃぁきっと、あの角を曲がって・・・ない!それだったら、次のあの角を・・・ ない!ない!ない! 2度程、散歩のときに通ったはずなのに、ないのである。
このリゾート地の通りは碁盤の目のようになっていて必ずどこかに出てくるので、 迷子にこそはならないが、その路地とういのが目茶苦茶小さく入り組んでいる。 目的のインディアン・レストランが1晩で神隠しに合うはずはない。 しかし、ぐねぐねと重たい足をひきずりながら歩く二人の前にはとうとうインディアン ・レストランは姿を見せてはくれなかった。 しかし、二人とも頑固な性格をしているので、こうなったらカレーと決めたら絶対に 意地でもカレーが食べたくなる。
「そうだ!バスの中から反対方向にインディアン・レストランの看板が見えたよな、そこ に しよう!」と、再び足に鞭を打ちながら歩き出した。 だいたい動いているバスの中から見えたのである。実際歩くとなるとこれがなかなかの 距離がある。 もうどーでもええ!好きにして!の気分ではあったが、ようやく腹をすかせたゾンビ2 匹は目的のインディアン・レストランにたどり着いた。
「うっそぉー!何やねん?うちらが何か悪いことでもしたんかえ?」 でもって、見事にこの日は定休日・・・ついてないときというものは輪をかけて ついていない。 どうやらカミサマは私たちを今日は目的地にはことごとく行かせたくないようである。 元来た道を又戻るのか・・・と思うとぞっとする。 「全く何て日だぁ?」とうとうカレーは諦めざるえなかった。
しかし、カミサマは最期に微笑んでくれた。 アパートに戻る途中の中華料理店へなだれ込んだ二人の前には、安くてボリューム たっぷりでとっても美味しい中華の数々がテーブルに並べられた。 最初っからここにすればよかった!なんて笑いながら、疲れを青島ビールで医したのだっ た。
6月7日(月曜日)自由行動日
昨日の疲れはどっぷりと残ってはいたが、しかしそこは休暇である。 疲れとは言えども心地よい疲れである。 今日は1日、休暇の中の休息日ということに決定した。 これはマクファージン家で相談の上決めた自由行動の日である。 この日はお互いが好きなことをするのである。 つまりいつも一緒に行動するいうのもいいが、もともとお互いが一人旅嗜好で あるので、たまには1人でのんびりと買い物やウインドウショッピングや散歩などを楽し むというものである。昼前にむっくりと起き上がり、軽いブランチをクロウェアッサンとコーヒーで済ませた 二人は6時の夕飯時に再会を約束して、お違いが別の道を歩き出したのだった。 hirokoは何はともあれ、ショッピングである。 とにかく物価の安いスペインだ。 スーパーマーケットをじっくり堪能するぞ!と気合を入れて、スーパーへと 買い物に出かけた。
食料品の並ぶコーナーでは、タコやイカ、貝類の缶詰めをどっさりとかごに 放り込んだ。サンガリアも忘れることなくかごの中へ。 果物も豊富で新鮮である。どうやらこのあたりはイチゴの産地らしく見るからに 赤々した美味しそうなイチゴが山盛りパックで100円あたりで売られている。 これもかごの中へ。 ピーチも熟して美味しそうなので、かごの中。 隣を見ると、これまた美味そうなスイカが半分。すいかはhirokoの大好物なのである。 UKにもスイカがたまに店頭に並んでいるのを見かける。勿論スペインからの輸入もの であろうが、まるで、甘みのない瓜を食べているようで、実に不味いし、不味いくせに 馬鹿高いのだ。 半信半疑でこれまたかごの中・・・かごの取っ手がひん曲がるくらいにヘビーな 買い物だったが、ひとまずたっぷりの果物と缶詰めを買い込んで、アパートに戻った。
まずは、赤々と美味そうなイチゴを口に放り込んでみた。 「うっそぉー!、甘い!!!」と、大感激だった。 UKにしろアメリカにしろイチゴは色は赤々としているのだが、どえらく酸っぱいのである。 酸っぱいイチゴがお好みの人にはいいが、甘いイチゴが好きな者にとっては、イチゴを 買っても、イチゴジャム行きである。 新鮮なままの甘いイチゴは涙が出るほどの感動であった。(大袈裟な・・)
「さぁて、スイカはどうじゃい?」ってなもんで、スイカも少し切ってみる。 「ううう・・・これがすいかなんだよ!これが!」またしても甘くてみずみずしい スイカとの出会いだった。 「ピーチはどうじゃろ?・・・・あまぁーい!」 久しぶりに本物の果物と出会ったって気がした。 そう言えば、UKで暮らしはじめて以来、めっきりと果物を買う回数が減ってしまっていた のだ。 確かにUKで買うメロンは美味いがあとは、どうも購買意欲が起こってはこないのだ。 美味しい果物を前にして、ニタニタと1人で喜んでいた。 再び街へと出てゆき、お土産ホッピングに精を出していた。
ふと目に付いたのが、美容院や散髪屋が意外に多いということだった。 値段を見ると、カットが1300ペセタ(約1000円)となっている。 hirokoは何を血迷ったのか、衝動的に髪を切りたくなってしまったのだ。
普通、女性が長い髪を切る時というのは、失恋とか、何かのくぎりをつけたい時とか 一大決心で望む方が多いが、hirokoの場合は全くそういったものではない。 長い髪にあきあきしていた・・・ここいらでちいとイメージチェンジといきまひょか? ってな軽い気持ちである。 傷んだ枝毛をばっさり、すっきり。 何せシャンプーやコンディショナーの節約にもなる。
1件の美容院に入っていって「短くカット出来るか?」と、スパニッシュのお姉ちゃんに 聞いてみる。 「どうぞ!」と、予約もいらずにそのまま椅子へと誘導された。 (ぶっひっひ!クリスが戻ってきたらさぞかしびっくりするぞ!)とニタニタしながら 長年付き合ってきたロングヘアーが一気に肩にも届かない短いショートに 変身したのであった。 ところが何せ¥1,000のカットであるし、おまけにスペイン語で段をつけてくれだの、 斜め後ろに流れるように切ってくれだの、細かい注文など出来るはずもない。 私の髪は馬鹿程多いのである。 出来上がりの鏡の中には、今世紀絶大なる美女クレオパトラといけばいいのだが、 スフィンクスがにゅぉーっと映し出されたのであった。 人間スフィンクスに変身してしまったhirokoは驚きと失望を抱えながら「何とか せねば・・・。」と、美容院の帰り道、がっくりと肩を落としながら、スーパーに 舞い戻り、ヘアーピンを買い込んで、このスフィンクス頭のアレンジにとりかかったのだ った。
何やらショッピングを楽しんでルンルンで戻ってきたクリスに向かって、「ばぁ!」 ちらりとhirokoを見た彼は大いに腰を抜かして驚いていた。
「どーしちゃったのさ!その頭!」
「どーしたって?見て分からんかぁ?髪切ったんやんか!」
「¥1,000だよ。安いんで、つい衝動的に入ってしもうたんや。どや?」
「驚いちゃったよぉー!別人みたいだからさ」
「ねぇ、安いからあんたも行っておいで!」と、促した。クリス君の自由行動は、もっぱらゲームボーイのソフトのウインドウショッピングと音楽 CDと 散歩とPUBだった。 ゲームボーイのソフトは、UKよりも£10(約¥2,000)も安いらしい。 「買ってはこなかったの?」と聞くと、「いろんなところを回って一番安いところで買う よ」 なんて、まるでおばちゃんである。 衝動買いをするhirokoとはまるっきり正反対なのである。
ホリデイの中休みに設けた自由行動日はなかなかグッドなアイデアであった。
夕食は2人してスパニッシュレストランで、イカ墨の真っ黒になったパエリアを 注文し、お歯黒のように歯と歯茎までも真っ黒にしながら、ガツガツと平らげるのだった。
6月8日(火曜日)ポートアベンチュラ
早朝7時に期待に胸を躍らせながらアパートメントを出る。 待ちに待ったポートアベンチュラである。7時20分発のオプショナルバスツアーは2階建てのデラックスなバスだった。 車内は家族連れ、若いグループ、カップル、ご年配と様々なメンバーで、勿論この バスはエアーツアーズが主催しているオプションであるのだから、日本人のhirokoを 除く全てがブリティッシュという訳である。
ツアーとは言ってもポートアベンチュラへの送迎だけであるが、ちゃんとバスガイド がついていた。 ガイドさんはどっぷりと体格のいい英語を話すスパニッシュの女性だった。 hirokoとクリスはウキウキしながら2階のシートに陣取った。 斜め後方には、自称「スパイス・ギャル」のイングリッシュの若い女の子達が、朝の はようからギャーギャーと甲高い笑い声で盛り上がっていた。 ガイドさんがいろいろと注意事項や連絡事項を伝えるのだが、このスパイスギャルもどき たちは彼女の喋る英語をことごとく馬鹿する。
「ポォートアベンツゥーラァ」
「ねぇねぇ!ポートアベンツゥーラァだってさ!イッヒッヒィー、ゲッヘッヘー」
「ピクニックをお持ちの方はぁ・・・」
「ピクニックだってさぁ!そんなこと言わないわよ!ランチパックよねぇ! イッヒッヒィー、ゲッヘッヘェー!」という具合に一言一言何か言う度に、思いっきり馬鹿にするのだ。 これは聞いていて気持ちのいいものではない。 若者の特権は何も恐いものがないことである。 しかしこれはマナーに反している。 クリス君は横で、「スコティッシュの彼女らと同じ年代の女の子達はこんなことは しないぞ!」と、ブリブリと怒っていた。 しかもこのグループの遅刻者のせいで7時20分出発のバスが20分遅れて出発 することになる。 遅刻者もやっぱりスパイスもどきで、何の悪びれる様子もなくどでかい図体をゆさゆさ 揺らしながら、席に着くなり、ギャハッハーである。 甲高い話し声と笑い声がバス中にこだまして、ねぼけ気分もぶっ飛んでいった。 隣ではクリス君がブリブリと怒っていた。
バルセローナを通過し、約2時間かけてコスタドラーダにある目的のポートアベンチュラ へ到着した。 ここは、アメリカのユニバーサル・スタジオも資金を出して援助している一大テーマパー クである。遊園地とテーマパークの違いは、遊園地がただ単に乗り物のある公園(UKではオートンタ ワーズやブラックプール)であるに対して、テーマパークは名の通り、いろんなテーマに 別れているものを言う。 ディズニーランドを例にとるといい。 ファンタジー・ランドやフューチャー・ランドのように公園内が各テーマに 区切られて、それぞれで独立したレストランやアトラクションや乗り物を備えて いるのだ。このポートアベンチュラも、中国、ポリネシア、メキシコ、ファーウエスト、地中海とい う5つのテーマに別れている。このパークの1地番人気のアトラクションは、中国にある「ドラゴンカーン」という ヨーロッパで一番長くて8つもループのあるジェットコースターである。 パーク内は平日にも関わらず、たいそうな人出だった。 特にスパニッシュの小学生〜高校生あたりの遠足の団体が多かった。 何はともあれ、hirokoとクリスは1番人気のドラゴンカーンに直行した。 キューはさすがに長々とすでに蛇のように出来上がったはいたが、目の当たりに 見るコースの素晴らしさは恐怖感を誘うものがある。
さて、スパニッシュの学生パワーの凄まじさに驚きふためいた。 男の子達は全く落ち着きというものを知らない、子供であるのだが、まるで3〜4歳 あたりの子供のように狭いキューの列の中をじっと順番を待つことが出来ず、絶えず 体を動かしている。てすりに登ったり、足をかけたり、腰掛けたり、しまいには鉄棒の ように回転したり、馬鹿デカでかい声で話すというより叫んでいる。
女の子たちはこれより酷くなる。 とにかくやかましい。陽気であるのはいいことだが、キーキー、キャーキャー、 そして手拍子が何よりも好きなようである。 みんなで固まって、絶えずフラメンコのダンスの手拍子をとっている。 女の子たちもすぐ隣にいる友達ですら、話すというより叫んでいる。 このパワーは物凄いものがある。
がだまぁ、やかましくて手拍子を打って叫ぶ程度なら我慢できるが、これに キューホッピングというのが加わるのだ。 キューの後方に自分の友達を1人でも見つけ出すと、その後方の友達を招き入れる のである。 一人や二人が割り込むくらいなら少々目をつむってやってもいいが、これが何人もの 団体がどばっとごっそり前列に割り込んで来る。 それもたまにあるのではない。常時割り込んで来る。 これには開いた口がふさがらなかった。全くマナーってものはここでは存在 していない。 彼らは悪いことをしているという罪悪感など持ち合わせず、割り込めた者は招き入れた 者たちと一緒にまた手拍子をして馬鹿高い歓声をあげている。
hirokoとクリスは今までいろんな遊園地やテーマパークでこういう長いキューに 並んでいるが、確かにフロリダのユニバーサルスタジオやディズニーワールドでも こういう光景はときおり見かけられた。 しかし1度や2度ぐらいなもので、ここの比ではない。
マナーのうるさいUKではまずはこんなことはそうそう起こることではない。 こんな割り込みをしようものなら、必ず誰かが注意をする。 スーパーなんかで長いキューに並んでいて、ホッピングをして割り込もうとした 人を見かけたことがあったが、必ず誰かが「この人が先だよ!」と、促す。 レジのおばちゃんもしっかり見ている。 「駄目よ!この人が先なんだから、ちゃんと列に並びなさい!」と、注意する。
ところがこのポートアベンチュラでは一体スパニッシュの大人達はっこういう 子供たちをどういう目で見ているのだろうか?と疑問が湧いたのだが、見て見ぬふり をしている。 私たち外国人だけが、顔をうんとしかめて、このえげつないスパニッシュキッズ達の 大名振る舞いを睨んでいるだけなのだ。 きっとこのスパニッシュの大人たちも子供のころは同じことをやっていたのかも しれない。 炎天下の中1時間あまりも並ぶキューイングは誰だってうんざりくるし、少しでも 先に先にと駒を進めたい気持ちはわからんでもないが、この信じられない割り込み 攻撃には腹立たしい思いでむかつくばかりだった。
隣でクリスがブリブリ怒っている。 さてこの日はクリス君、お気に入りのJリーグのNAKATAのロゴ入りTシャツを着ていた ものだから大変である。 背中の所に大きく「NAKATA」などと書かれてあるので、スパニッシュキッズたちの いい暇つぶしにされてしまって、「ナァータァ!ナカァータァ!なかぁーたぁ!」 と野次と歓声が飛び交って、これがまた叫び声なので、やかましい。 「あんた、いつからNAKATAになってん?えらい有名人やんか!」とHIROKOも からかってみるが、クリス君はブリブリ怒っていた。 ここには変なロゴ入りTシャツを着て行かない方が無難である。
さらに驚くことに全くといっていいくらい東洋人をみかけない。 まぁ、この日が特に東洋人がいない日であったのかどうかはさだかではないが、 バルセローナやダリミューゼアムで時折見かけた日本人観光客の姿は一切ない。 遊園地は馬鹿ほどある日本からわざわざ西洋にまで、テーマパークを観光に組み入れる 観光客は、フロリダやロスを除く限りいないのは当たり前であるが、それにしても 韓国人も中国人も日本人もみかけないとは、何だか奇妙な感じであった。 そのせいか、スパニッシュ・キッズ達はhirokoをまるで重箱をほじくるような目で ジロジロと舐めるように見るのである。 日本にいる外国人が田舎へ行くと、「ガイジン!ガイジン!」と好奇の目にされされる ような感覚が今ようやくわかるような気がした。 むかついたhirokoはこちらも相手を穴が開くほど見つめ返すのだった。 大阪弁ではこれを「めんちを切る」という。
凄まじい割り込みで待つこと約1時間だったが、ようやく我らの順番となった。 何ともラッキーなことにシートは最前列である。 このようなトップクラスのジェットコースターは最前列でこそ、その醍醐味が倍増する というものだ。 イングランドにあるオートンタワーズの「ネメシス」などは、最前列だけが別のキューと して設けられている。 ワクワクしながら乗り込んだ。 8つのループはさすがに迫力があり、速さもあり、結構長距離である。 ギャァー!うギャァー!とええ歳をこいて喉が涸れるほどおたけびするhirokoだった。 1時間を嫌な思いで並んだことなど、一気に吹っ飛んでしまった。 ブリブリと怒っていたクリス君も機嫌がよくなって、「ジェットコースター狂のマイケルに 見せてやるんだ」と言いながら、このドラゴンカーンのTシャツを嬉しそうに買っていた。 二人とも単純細胞である。
お次の第2番人気はファーウエストに設けられている「スタンピダ」というコースターである。 まぁ、マジックサンダーマウンテンに似たようなジェットコースターである。 しかし、ここでもやっぱりスパニッシュキッズの割り込みパワーが爆発している。 ここでも約45分あたりのキューである。
スプラッシュマウンテンもどきの激流下り「tutuki スプラッシュ」。 ここでは思い存分うそぉー!という程の水をかぶるが、スペインである。 ポトポトに濡れた服もあっという間に乾いてくれる。
パーク内はかなり広く、これを1日で堪能するには時間がなさすぎる。 何せ人気のアトラクションに並ぶのに時間を費やし過ぎるからである。 2日間は欲しいところではあるが、何せこのマナー最悪のスパニッシュキッズたちは どこのアトラクションにも出没している。 「こいつらから離れたい!」という気持ちが湧き出てくる。 やはり精神的には1日で充分かもしれない。
そそくさと乗り物三昧を繰り返し、最期にもう1度「ドラゴンカーン」を決めて バスの待つパーキングへと戻っていった。 このパークの開園は朝の10時からで閉園は、この6月の中旬までは7時となっていた。 だが、ガイドさんから言い渡された出発時刻は6時である。 まったく急ぎ足で回った園内ではあったが、ドラゴンカーンに2度挑戦できたのであるか らして 二人ともご機嫌だった。
バスに戻って出発を待つが、やはりこの手の団体集合では遅れてくる奴が出て来る。 「きっとあの例のイングリッシュのスパイスギャル達が最期だよ!」の、hirokoの 予想は見事に的中だった。 もっともこの園内はかなり広いし、結構迷子になったりする。 それに遊びに夢中になっていると、どうしても時間を忘れがちになるし、何と言っても 園内は7時まで開いているのである。 それを6時に集合と言われても、なかなか気が付かなくて当然と言えば当然である。
ガイドさんは、段々顔をひきつらして、パークの入り口とパーキングを行ったり来り しながら、遅刻者を待っている。 それでも約20分ほどでスパイス達は頭をかきながら戻ってきた。 ああ、やれやれと思いきや、ガイドさんが人数を確認するとまだ2人足りないと言う。 大人や若者は待つことは出来るが、こういう狭いバス内で育ち盛りの子供たちが じっとしていられるはずはない。 泣き出す子供やそれを叱る母親のキリキリ声、走り回る子供たち・・・ 運ちゃんもイライラしながら、タバコをふかせてバスを出たり入ったりしている。 とうとう運ちゃんとガイドさんは35分を過ぎたところで、決定を下した。 バスは2人の客を置き去りにして、コスタブラーバに向かって出発させたのだった。
ガイドさん曰く、どこかのバスが拾ってくれるかもしれないし、タクシーでも2万円ほど だと・・・ 「ほう!容赦なしなんやなぁ。」と、hirokoは驚いたのと同時に、日本だったらこうい う場合、 何分までが制限時間として待っているのだろうかと、興味を覚えた。 だがたった二人の為に、何十人もの乗客を1時間も待たすわけにはいかないのだ。
乗客はどっぷりと遊び疲れた様子で、意気のよかったスパイスギャル達も、あの スパニッシュキッズの毒気にやられたのか、行きとはうって変わって、えらく静かで おとなしくなってしまっていた。 勿論バスの中では、スパニッシュたちのマナーの悪さについて皆が皆口を揃えて 不平をもらしていた。 「殺してやりたいと思ったわよ!」と、隣のシートの女の子達がどえらく嫌な思いを したのであろう、口々に信じられない、信じられない!を連発していた。 ドラゴンカーンは魅力だが、彼らがいる限り二度と来たいとは思わなかった。
6月9日(水曜日)ウォーター・ワールド
「遥々とアバディーンから水着を持ってきたのに1度も着ずに帰るのはやだぁ!」 とhirokoがごね出した。このシャーロット・デ・マーからは、様々な種類のプールが楽しめるウォーターワールド へ向かう無料送迎バスがでている。 クリス君は、泳げないし、ビーチに寝そべってぼぉーっと出来るタイプではなし、 まず興味がない。 しかし、hirokoの強引な誘いに、しぶしぶこのウォーターワールドへの同行に賛成した。 ・・・というよりも、このウォーターワールドには興味はないが、ここにはバンジージャンプ の特設会場が設けられている。 常日頃、バンジージャンプを死ぬまでに1度は・・・と、興味を示すクリス君は、 案外簡単に水着をバックに詰めこんでいた。
彼は外面はソフトであるが、中身はなかなかの頑固者である。 ここは、リゾート地、外へ出ても周りはみんな半パン、サンダル姿の軽装で軽やかな 装いであるにも関わらず、どんなに暑いんだから、半パン、サンダルを薦めてみても クリス君は頑として受け付けない。
別段、人前へさらしても、へんてこりんな足をしているわけでもない。 毛深いがなかなかカモシカのようなゴボ天のような足をしている。(どんな足やねん?) どんなに褒め称えても駄目なのである。
彼から言わせると、公衆の面前で半パン、サンダルなんて姿はとんでもないそう なのである。 彼のポリシーでは、部屋の中、それも寝室でなら構わないが、in public、つまり リビングではタブーなんだそうだ。 ジェントルマン中のジェントルマンである。
幼い頃からの教育のたまもの・・・そういう意味ではかなり保守的な男である。 これが歳と共にこの頑固さがずんずん増してくると思うと、ぞっとはするが、 別に半パンやサンダルを履かないからといって、hirokoが困る訳でもないので、 つっこまないことにした。
だが、プールではそんなクリス君も半パンをはかざるえないのである。 プールやビーチでは公衆の面前でも構わないそうである。 変な奴である。
2年前のエジプト旅行で着たっきりタンスのこやしと化していた水着に着替えた。 2年という歳月とビールのせいで、どうも腹まわりがブヨブヨと見苦しい。 日本だったら、とても皆様にご迷惑で申し訳なくって着れない所であるが、こんな西洋 諸国であれば、周りを見渡せば、ご迷惑を通り越した人々がわんさか存在する。 それにhirokoの腹はケーキやアイスクリームやえげつなく甘いものを食べ過ぎて 出来たぜい肉と呼んでいる周りの人たちとは違って、ビールで出来た筋肉である。 (どこが違うねん?) それに比べると、可愛いもんである。 「二段腹、みんなで出せば、恐くない!」である。
無料の送迎バスに乗り込んで、ウォーターワールドに到着する。 入り口近辺に設けられているバンジージャンプ会場に目を向けた。 まだ昼前で少々早いせいか、人だかりは出来ではいなかったが、クリス君は興味津々 で準備をしているスタッフに歩み寄っていく。
巨大なクレーンで登ってゆき、かなりの高度が有る。 値段はいくらだ?と興味を示すクリス君にスタッフのおじさんは約6000円だと 言いながら「Come on!」と促した。 「6,000円・・・・うーん・・・」 クリス君はうーんと悩み込む。
hirokoは即座に「たけぇー!」とは思ったが、だいたいバンジージャンプの相場が いくらなんて知らない。 これが安いのか高いのか・・・安いのだったらスーパーのディスカウントみたいに 飛びついて、飛び降りなければならないということもあるまい。 とびっきりのジェットコースターならいいが、ただ単に高い所から飛び降りるという 行為・・・ものの2分程のことで、6,000円というのはhirokoにとっては理解しがたい ことである。
昨年日本へ帰った時に購入した自作自演自録音というアマチュア・アーティストのCD集 の中にえげつなくネガティブな曲が1曲入っていた。 その1節に中に「バンジージャンプをしてぇー、ひもが切れて死んだぁー」という 歌詞があった。 このフレーズが曲と共にhirokoの頭の中で、まるで壊れた蓄音機みたいに何度も 何度もリピートする。
「うーん」と考え込んでいるクリス君に向かってhirokoは言った。 「ねぇ、やるのはいいけどさぁ、ちゃぁーんと生命保険かけてからにしてよねっ!」と ドぎついジョークと本音の入り交じった言葉をかぶせてやった。 クリス君はぎょっとはしながらも、「僕にもしものことがあったら、アバディーンの アパートは全部君のものだよ!」 「あほう!いくらアパートを頂いたからって、皿洗いで食ってはいけないんだからねっ!」 などと、超現実的なことを話すうちに彼の闘争心はしなびてしまったようである。 「まぁ、帰りまでにじっくり考えよう。明日もまだあるんだし・・・」と、ひとまず ウォーターワールドに入園することになった。
入り口を抜けると、コインロッカーを借りて着替えをし、まずは園内散策である。 ここには子供から大人まで楽しめる様々なプールが備わっている。 大人に大人気なのは、ジャグジー・プールで、泡風呂みたいなものである。 小さなプール内にまるで芋の子を洗うように、それぞれが泡の出所でリラックスしている 。 子供たちは浅いプールや比較的傾斜の低い滑り台から、スルスル滑り落ちてドボン!って な 具合に遊んでいる。山を切り開いて作られた園内である。 かなり傾斜の高度な滑り台、高、中、低と段差のある滑り台には、子供たちや 若者がキューを作って楽しんでいる。 この滑り台の中でもとっておき超高度の「KAMIKAZE」と名のつけられたロングで 急な滑り台が人気の的のようだ。 「面白そぉー!」と、滑っていく人たちに目を見張っていた。二人は比較的混雑していない浅い円形プールサイドを陣取ろうと、サンデッキを 1つ600円で、これを2つ借りて本日の昼寝場所を確保した。さてここは、太陽の国スペインである。 とは言えどもフランス国境に近い北部である。 勿論サンシャインには満ち溢れてはいるものの、それでもまだ6月始めであるので、 そのプールの水というのが、まるで井戸水、まさに氷水のように冷たい。 足をちょこんと入れたhirokoはあまりの冷たさに飛び上がってしまった。 こんなプールに入ったら、風邪をひきそうである。パーク内の一番人気と言えば、さきほどのKAMIKAZEとウォーターマウンテンである。 ウォーターマウンテンは2人乗りのビニールゴムボートに乗っかり、激流を下る ジェットコースターのウォーター滑り台版といった感じである。 普通の滑り台で、最期にプールの中にドボンするものとは違って、「これなら僕だって・・・」 と、クリス君が唯一興味を示したアトラクションだった。 そう、これなら水はかぶるが、溺れる心配はない。 二人はさっそくこのウォーターマウンテンに挑戦である。
10分程のキューに並び、寸前にどちらが前になるかで、一悶着したが、結局 クリス君が前、hirokoが後ろにまたがって、黄色いビニールゴムボートはゆらゆらと 動き出した。 ぐねぐねに曲がりくねった激流滑りはただ見ているだけでも充分楽しい。 いざ、出発となるとちょいと気合が入った。 最初から急降下だったからである。 ギャァー!ドボン!、ぎゃーっ!どぼん!を繰り返し、トンネルに入ったり、 思い存分氷水を浴びながら、これは楽しい!これは愉快だ!2人して叫んでいると、 hirokoのビールで出来た筋肉もブルブルと喜んでいた。 水がこんなに冷たいものでなかったら、何度でも遊びたい心境だった。
ブルブルと震え上がりながら、サンデッキに戻り、日光浴をする。 太陽はサンサンなので、あっという間に乾きはする。 今日はのんびりとここでリラックスしようと、単行本やゲームボーイやスナック類 をちゃっかり持ち込んで、「ああ、これぞまさしくホリデイやぁ!」と、ぼぉーっと しながら時を過ごした。
「今頃、ラボーンバケットはランチタイムの戦争中やぞ!げっへっへ!ホリデイは ええなぁ!」と、光合成に精を出すHIROKOだったが、隣のクリス君はさすがに白人 で、肌が極めて弱いし、何と言ってもスコットランドの北国育ちである。 スペインの太陽は彼にはちょいときついようだ。 木陰へと彼はデッキを移動させて、昼寝と決め込んでいた。 パーク内には勿論レストランやファーストフードがあり、遅い昼食をとって、5時の 閉園まで、実にのんびりと過ごしたのだった。
園内を出て、はたまたバンジージャンプの会場には2〜3の屈強な男性が、飛び降りて いた。
「どーするのさ?」
「うーん。今回は止めておくよ。そのかわりゲームボーイのソフトが2つ買えるぞぉ!」 と、今回はクリス君は賢い選択をしたのだった。真っ赤に日焼けし、アパートに戻った二人は荷物を置いて、夕食をとりに街へ赴いた。 今夜はギリシャ料理を楽しんだ。 そのあとPUBへ入って、2000年ユーローカップに向けての予選、スコットランド対 チェコの試合を観戦した。
このリゾート地は、観光客のその殆どがUK人とドイツ人で占められている。 そのせいで、PUBもイングリッシュパブ、アイリッシュパブ、ジャーマンパブ が至る所にある。 私たちの入ったPUBはスコットランドの試合を放映しているのであるからして、 客はみぃーんなスコティッシュである。 グラスゴーから一緒だった、同じアパートの住民たちもこぞってこのPUBに集合して、 スコティッシュ・チームの応援に声を嗄らしていた。
hirokoにとっては、マコイスト君やゴーラム君の抜けたスコティッシュ・チーム には、殆ど興味を失ってしまっていたが画面に目をやると、あれれ?である 見慣れたプレイヤーが元気よくフィールド内を走っている。 何と!ビリー・ドッツ君ではないか! 彼はアバディーン・チームの花形だったのが、今ではダンディー・ユナイテッドに 売られてしまったのだ。 それ以来、アバディーンチームはがた落ちで、今は最下位路線をまっしぐらである。 ダンディー・ユナイテッドに移ってからの彼は、まぁものの見事に成績をあげて、 ようやく今回スコットランドチームの一員となり得たのであろう。 hirokoは興奮した。
ハーフタイムまでに何とスコットランド・チームは1点を先制したのである。 PUB内は大騒ぎである。 ここはほんまにスペインかぁ?ってなほどに、まるで地元のPUBで盛り上がっている 感じである。 しかし、やっぱりスコティッシュ・チームである。 後半にバカボコと点をとられ、いいとこなしで幕は閉じたのだった。 「まぁ、いつものこっちゃしね。」って感じで、トボトボとアパートに戻るのだった。
バンジージャンプを諦めたクリス君は、帰り道でゲームボーイのソフトを2つ買い込んだ 。 「ドンキーコング・ランド」と「スターウォーズ」が安売りしていたのだ。 スコットランドチームが負けて、気分が落ち込んでいたのだが、ゲームボーイを 購入したクリス君の顔には満面の笑みが溢れていた。
6月10日(木曜日)ビーチ
とうとう最終日となってしまった。 「せっかくのビーチホリデイやのに、ビーチで遊ぶことなしに帰るのは、やだぁ!」と hirokoがまたまたゴネていた。何だか我が侭な娘のようであるが、アバディーンに戻ったらこの夏だって、お日様が こんなに溢れるだろう保証はないのである。 ここぞで、たっぷりと真っ黒になるくらいまで、お日様とお友達したい気分だったのだ。
クリス君も「そーだよな。この夏だってどーなるかわかんないもんなぁ、昨年は夏でも 真冬並みだったからなぁ・・・」と、同意はしたが、「日光浴はもう昨日充分したので、 僕はパラソル内で過ごすよ。」とビーチで最期の1日を過ごすことに決定した。
今日は特別長い1日となる。 何せ、このアパートメントのチェックアウトは午前10時である。 だがグラスゴーへと戻るフライトは夜中の2時半なのだ。 つまり翌日ということだ。 フライトのチェックインは12時で、11時に空港へのバスがやってくるまで、それまで 自由時間となる。 「一体それまで、どーすんねん?」ではあるが、ひとまず、このアパートをチェックアウト した後、荷物を別のアパートへ預ける。 さすがパッケージツアーとあって、各グループには部屋は提供出来ないが、2部屋 だけ、最期の身支度をしてもいいようにと、バスルームを提供してくれることになった。 であるから、最期にビーチをゆっくり楽しんで、帰国する前に一風呂浴びて身支度が 出来るということである。チェックアウトの際には、始めに収めた保証金が戻ってきた。 それから、係りのお姉さんが各グループの部屋を1つずつチェックをしてまわる。 このチェックは備品に異常がないかどうかである。 やはりツアー客の中には、こういった備品をちゃっかりバックの中に入れて持ち帰る 人もいるらしい。 実はhirokoも考えた・・・「ああ、これええなぁ。この包丁もええなぁ。このクッション も・・・」 などと、よくぞねこばばしてこなかったことである。 しっかりとその辺は1つ1つしっかりとチェックリストが壁にかかってあったのである。 チェックアウトを終えて、グラスゴーからやってきた同じアパートメントの人たちととも に 荷物を預かってもらう別のアパートまで移動し、ビーチに向かって歩き出した。 hirokoの日光浴の場所を陣取り、サンデッキを借りて、ゴロンと横になった。 暫くは傍で、昨日購入したドンキーコングをピコピコと鳴らしながら遊んでいたクリス君 だったが、 さすがのきつい陽射しに我慢できず、真っ赤な顔をしながら、散歩でもして、ビールを飲 んでくるよと 言いながら避難していった。 hirokoは久しぶりに全身に浴びる強い陽射しにウトウトしながらも、単行本を読んだり、 お菓子を食べながら、周りを観察したりしていた。
思い起こせば、最期にビーチで日光浴なんぞの贅沢なホリデイをとったのは、 遥かに大昔に溯る。 色鮮やかな水着のファッションショーを見ているだけでも楽しい。 だが、日本では見られない光景にトップレスの女性たちが多いということだった。 彼女たちは何の恥じらいもなく、バストをモロに揺らせながら歩いている。 これを「おお!」と、珍しがっているのはhirokoだけみたいである。 男性たちなどは、別段もの珍しい感じもなく無視している。
ここのビーチでは水上スキーやボート、アクアライダーや近辺のビーチへとホッピング している遊覧船も出ている。 水はとても奇麗でコーラの缶やゴミなどは落ちてはいない。 とても気分がよかった。
ここでのビーチホリデイ客の行動パターンが帰る最期になって読めたのだった。 まずは、どこという目的を持たず、ただひたすらリゾート地の缶詰め派たちの1日という のは、 朝はゆっくりのんびりと朝寝坊で10時〜11時頃からブラブラとビーチへ出かけ、日光 浴や 水遊びを楽しんで、昼食をバーガーショップなどで軽くとる。 再びビーチに戻って2時頃〜3時あたりまで、過ごしたあと、本格的な昼寝をするために ホテルやアパートメントに戻って、昼寝をきめる。 シャワーを浴びて小奇麗にしたところで、7時頃から夕食をとり、その後は深夜 遅くまでディスコやpubで遊ぶというパターンである。 夜が遅いので翌日は朝寝坊・・・これを毎日毎日ってわけである。
寒国のUKやドイツの人々にとってはこうした一見ぐうたらなHOLIDAYのスタイル に一種の憧れが出来ても当然な話である。 何ぁーんにもせずにビーチに寝っころがって、腹が減ったら食事して、眠くなったら 昼寝して、夜になったら俄然元気がバリバリと出てきて、飲んで食べて踊って笑って 夜を過ごす。 まさに南国生活であるのだ。 灰色の冬の長ぁーいアバディーンに住むHIROKOにも段々ちょっぴり分かるような 気がしてきた。
ウトウトとそんなことを考えながらいつのまにか寝入ってしまっていた。 どうも体中がヒリヒリとするぞ!で、眼が覚めて足や腕を見ると真っ黒けのけに なっていた。 黒焦げhirokoに変身していた。 戻ってきたクリス君も「おお!すげぇー!真っ黒けだぁ!」と驚いていた。
午後4時、十分に堪能したビーチに分かれを告げて、アパートに戻って部屋が空く 順番を待つ。 1グループ30分という大体の制限時間が与えられ、そそくさと部屋のバスルームで シャワーを浴びた。黒焦げになった肌がヒリヒリと痛む。 交代でシャワーを浴びて、帰りの身支度を整えた。 顔も見事に土人のように黒焦げである。 持っているファウンデーションがやけに白くて異様な化粧となってしまっている。
スペイン最期の夜はイタリアン料理でしめくくった。 ガーリックの効いたピザにシーフードたっぷりのパスタと白ワインに舌つつみをうつ。 レストランを出て、ブラブラとPUBで最期の時間つぶしをするのだった。
11時にお迎えのバスが来るというのになかなか時間が来てもバスはやってはこなかった。 今日はとてつもなく長い1日なのだ。 これからホテルへ送迎して眠れるというのではない。 これからまだ飛行機に乗ってスコットランドへ帰る・・・そのあとグラスゴーから 朝1番の列車でアバディーンまでの道のりである。 それを思うとぞっとした。
ツアー客はみんな疲れきっているという感じだった。 大人はいいが、小さい子供を連れた家族連れというのは大変だ。 だが、いくらバスが遅れるとはいっても飛行機に乗り遅れるという緊張感や危機感は 一切ない。 なぜならば、エアーツアーズの飛行機だからである。
30分以上も待たされてようやくバスは私たちをジェローナ空港に運んでくれた。 チェックインは係りの地上常務員の不足とかで、たった1つしかないグラスゴー行きの 窓口だった。 勿論のことえげつないキューイングが発生した。 長い長いキューを待つ。だがここにはポートアベンチュラで味わったような嫌な キューホッピングは一切存在しない。 ただだらだらと時間が過ぎるだけ過ぎて、中々前には進めないでイライラしてくる だけである。 それでも乗り遅れるとう危機感が存在しないだけでもゆとりがある。 この辺がパッケージツアーの強みであろう。
ようやく長いキューから開放されたが、飛行機の方も、はたまた遅れている。 2時半のフライトが3時半のフライトとなった。 隣に乗り合わせたおじさんは、グラスゴーに住んでいて、同じアパートに 振り当てられた人だったが、こういうパッケージツアーを毎年やっているという。 このスクエアーディールに関しても、それはそれは多くの経験があるそうで、 今回のアパートについてどう思うかって聞いてみた。
「あたしたち、今回が初めてのセフルケイタリングのホリデイだったんだけど、 今回のアパートはどうでした?」と聞くと、 「最高だよ!今までの中で1番だったさ!おnewでとても広かったしね。保証金が とられることは気に入らなかったけれど、新しいアパートなんだから仕方ないさ。 中にはひどい所だって一杯あったよ。トルコではゴキブリがバスルームにわんさかいるし、 ギリシャでは本当に狭いアパートで隣の声はまる聞こえだし、エアコンは故障するし 寝られたもんじゃなかったさ。」と、いろいろと教えてもらった。 ということで、今回の旅はえらくラッキーな掘り出しものだったみたいである。
6月11日(金曜日)スコットランド
待ち疲れが一気に出たのか、ふぅーっと寝込んでいた。 気が付くともうスコットランド上空ということだった。 ひんやりと肌寒い。グラスゴーの朝は半袖ではとんでもないが、快晴の素晴らしいお天気だった。 アバディーンに戻る列車に乗り込んだ。 眠気が一気に襲って来る。
ほれ!やっぱりねっ!だいたいいっつもこうなんである。 というのも、グラスゴーやエジンバラの旅の途中はこうした2大都市では、 見事ないいお天気に恵まれて、時にはポカポカと暑いくらいなのに、パースを 通過したあたりから、空模様が変って来る。 ぶ厚い雲がドデンと空一面に覆い被さり霧が出はじめ、しまいに雨が降り出し、 アバディーンに着くと灰色の真冬となる。 この日もやっぱりそうだった。
アバディーン駅に到着すると、そこはやっぱり真冬が待っていた。 半袖の軽装で過ごせた1週間が嘘のように、冷たい風がビュンビュン吹いている。 またまたジャンパーを取り出して着込む。 先日のウォーターワールドで思いっきり氷水を浴びた二人はくしゃみの連続で 喉が痛い。 楽しかったholidayのお土産にちゃっかり風邪も持ち帰ってきたようである。
翌日から仲良く寝込んでしまった二人ではあったが、そもそも£199のスクエアーディ ール のパッケージツアーであるのだ。 たいした期待もせずに出かけたコスタブラーバは、嫌な思いもあったりしたが、充分楽し めた holidayだった。 スペインは物価も安いし、太陽とシーフードが溢れている。 今度もこういったパッケージツアーを賢く利用して、参加したいと思っている。